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  • 〜オンラインレッスン短編小説〜 『ビヨンド・ザ・タクプラ』
  • 2021/03/04
第1話 『ギター五里霧中』



「おう、久しぶり~」
「聞こえてる?大丈夫?」
「聞こえてるよ~」

パソコンの画面上に次々に懐かしい顔が映し出される。

「久しぶり」
「変わんねぇな」
「何年ぶりだ?」

そんな話で盛り上がっている相手は中学の同級生だ。

このコロナ渦において、成人式が無くなり、俺たちはリモート同窓会を開催することにした。
1年前は、自分たちの成人式が無くなるなんて思ってもいなかった。この1年で、世の中はガラッと変わってしまった。

大学進学のために上京し一人暮らしを始め、サークルやバイト、もちろん学業も、どれもこれも忙しくて充実した日々を送っていたのに、2年生になった直後に緊急事態宣言が発出されて、大学はオンライン授業となった。大学へ行けないため、サークルは当然休止になった。
居酒屋バイトは営業時間短縮と人件費削減のため極端にシフトに入れなくなったし、なんとなく辞めてほしいような空気を感じたので辞めた。代わりに人手不足のウーバーイーツで新たにバイトを始めて、暇な時間を潰している。

オンライン授業と自宅課題、時々入るウーバーのバイト、これしかやることが無くなり、暇な時間が圧倒的に増えた。
最初こそ、漫画を読み漁ったり、動画や映画を見たりして時間を潰していたが、あっという間にやることが無くなってしまった。

それに、折角二十歳になり堂々と酒の場へ行けるようになったのに、飲みに行ける環境ではなくなっていたのがとても残念だった。

そんな中、あらゆるイベントが中止となり、成人式中止の知らせが届いた時もショックは少なく「やっぱりね」という諦めの感情の方が大きかった。
故郷へ帰って同窓生と会うのを楽しみにしていたけれど、まぁ仕方ないよな……と一度は自分を納得させた。

ところがそんな俺に朗報が入った。
中学の同級生がオンライン同窓会を企画しているというもので、当時バスケ部に所属していた仲間たちとオンラインで繋いで飲もう、という企画だった。

俺の心は躍った。
何も楽しみが無く、ただ暇で退屈な日々を消化するだけの生活に一筋の光が差したようだった。二つ返事で参加することにして、俺はパソコンの向こう側の友人たちと談笑することとなった。


「最近どうしてる?」
という話題になり、皆が口々に「暇だ」と言い出した。

進学した奴も、就職した奴も、皆俺と同じようにリモートになっているらしく、家に閉じこもって生活していると言っていた。

「俺、最近ピアノにはまってる」
ひとりの友人がそんなことを言い出した。

「ピアノ?」
「ああ、お前習ってたもんな」
「そーだ、そーだ!合唱コンの時伴奏弾いてたじゃん!」

そうだった。思い出した。
そいつは中学の時ピアノが弾けることで有名で、確かに合唱コンクールでも伴奏を弾いていた。

「うん。だけど高校入ってから全く弾かなくなってさ。
コロナで暇になったからまたやってみようかなって。
全然弾けなくなっててショックだけど、弾きてぇ曲弾けるように頑張ってて、これが結構楽しいんだわ」

そう語る友人は生き生きしていた。

「ほぉ~、俺もなんかやろうかな~」

特に考えもしないで、そんなことを口にしてしまった。
その時はノリで言っただけだったが、同窓会が終わってから、そういえば自分もずっとギターに密かに憧れていたのを思い出した。

もともと歌が好きで、カラオケが趣味だったが、このコロナのせいで友人たちとカラオケにも行けないし、ストレスが溜まっていたところだった。
ギターを弾きながら歌を歌う、弾き語りに憧れていたものの、楽器経験が全く無く楽譜も読めない俺にギターができるとは思わず、なんとなくチャレンジできずにいた。

まぁ……でも、時間だけは有り余るほどあるからなぁ……

俺は心の中で呟いた。
これを機に、何か新しいものを始めてみても良いかもしれない。
ギターなんか、まさにピッタリじゃね?



思い立つととりあえず行動してしまう質なので、ネットで安いアコギを購入し、色々調べて教則本も買った。
コロナ渦ということもあって、レッスンには行かず、自宅で独学でマスターするつもりだった。

ギターが届き、教則本と睨めっこしながら始めてみたものの、最初から盛大に躓いた。
文字と図、写真だけでは全く理解できなかったのだ。
俺は「本がダメなら動画だ!!」とYouTubeのギター講座的な動画を見漁った。
それで解決できることもあったが、なかなか知りたい情報が得られず、しかも、自分で見様見真似でやってみても、これが正しいのか、間違っているのか、それが分からない。

自分を信じるしか無いのだが、そもそも何の知識も経験も無い自分をどうやって信じられるというのだ……

「五里霧中」という四字熟語が浮かんだ。
手探りすぎて、何も楽しくない。面白さも分からない。ただ、しんどかったし、なぜかイライラしてきた。

やっぱ俺には才能が無かったか。
いやでも安かったとはいえ、ギター買ったのに勿体ねぇ……

辞めて放り投げてしまうか、自分なりに続けるか、そんなことに悩んでいたある日、あのピアノくんがYouTubeに動画をアップしたと聞き、見てみた。
そこには楽しそうに自分でアレンジした流行曲を演奏するピアノくんの姿があった。

あいつ、あんなに上手かったっけ……
「ピアノにはまってる」と言っていた彼の顔が浮かび、「はまってる」ってことは毎日すげー練習してんだろうな、どうやったらそんなに熱中できるのかな、と思い、連絡を取ってみた。


「へー!ギター始めたんだ!!」
ピアノくんは、嬉しそうにそう言って、俺の相談を聞いてくれた。

「俺も、ずっと自力で練習してたんだけど、やっぱレッスン受けなきゃダメだと思って、オンラインレッスン受けたんだ」

「オンラインレッスン?」

「ああ。タクプラっていうサイトがあって、そこで申し込めるんだけど……」

それが、俺とタクプラの出会いだった。
ピアノくんの話によると、タクプラとは、ZOOMを使ったオンラインレッスンで、40種類以上の楽器と、沢山いる講師の中から好きなレッスンを選んで受講できるらしい。
値段は1レッスン3,500円からで、入会金は無く、単発で受けられて、月何回とか回数が決まっているわけではない。つまり、月謝制ではなく、1コマ3,500円からで、何回受けても良いってかんじらしい。

「先生に聞きたいことが出てきた時とか、どうも上手くいかなくて見てもらいたい時とか、そういう時だけレッスン受けられるから、お金も時間も無駄にならなくて良いよ。オンラインだからコロナの心配も無いし」

ピアノくんが勧めてくれたタクプラ、俺もやってみようと思って調べてみると、ギターの先生が沢山いて驚いた。
初心者、中級者、などレベルによってレッスンが別れているのも分かりやすかった。

入会金も要らないから、気軽な気持ちで始められるな、そう思って、俺は早速登録した。
「初心者大歓迎!!」というギターの先生のレッスンに申し込み、ドキドキしながら初レッスンを迎えた。

「楽器そのものが初めてでドレミも分かんないし、楽譜も読めなくて……」

恥ずかしそうにそう言う俺に、先生は「大丈夫ですよ!ギターは初心者さんでも始めやすい楽器だから、楽しんでマスターしましょう!」と言ってくれた。
安心感がすごかった。

初レッスンはあっという間に終わってしまった。
たった数十分の間に、何日かけてもよく分からなくて苦戦していたことが何個も解決されていった。

魔法みたいだった。
何よりも自分の中に「楽しい」という感情が生まれたのが衝撃的だった。

ギターって楽しい!
もっと上手くなりたい!
もっと練習したい!!

そう思っている自分に気付いただけでも、初回レッスンの収穫は十分すぎた。

俺はそれからも、この先生のレッスンを受けた。
自宅練習にも力が入った。
学生でお金が潤沢にあるわけではなかったから、月に1回ぐらいしかレッスンできなかったけれど、先生はいつも丁寧に教えてくれて、レッスンとレッスンの間に生じた疑問や悩みをどんどん解決してくれた。

今はコロナでセッションとかもできないけれど、いつか例のピアノくんと一緒に何か演奏することが目標となり、人生に指針ができた。

趣味を楽しむ充実した人生……なんだか素敵なオトナの幕開けの予感がして、俺はギターを手に、苦戦中のコードの練習に笑顔で取り掛かった。